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[jfriends-ml 11356] 俗流オブジェクト指向 (Re: UML)



UML否定派の村山@NETGENEです。

捕捉.
> > オブジェクト指向とは、現実世界の関係を
> > 抽象化してソフトウェアで表そうという考えではないのでしょうか?
> いえ、多分それは俗説です.そういう俗説の方が目立ってますがね.

これは,クルーグマン風に言えば,「俗流オブジェクト指向」というところです.

本物の理論とは似ても似つかぬ紛い物だけれども,「難しい問題を真剣に考えよ
うとはしないが,高度な理論を論じているかのように思わせたい人達が,それに
飛びついている」.「俗流オブジェクト指向研究者」達だけが自滅するのは勝手
ですが,他人も巻き込むとなると笑い話では済まされません.


・ポールクルーグマン著「良い経済学 悪い経済学」,序文より引用.

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「しかし,わたしの反応は違っていた.わたしは貿易については少しは詳しいと
考えており,スカリーには自分がなにを語っているのか,全く分かっていないと
思えた.しかし問題の核心は,誤解しているのがスカリーだけではないことだ.
(中略)つまり,リトルロックの経済サミットで語られたのは,一流の俗流国際
経済学であり,説得力がある高度な議論のように聞こえるが,まともな国際経済
論とは似ても似つかぬものなのである.

なにかが,とてつもなくおかしくなっている.」


「必読書はいずれも,二つの特徴を持っている.第一に,スカリーが語った内容
とほぼ変わらない世界の見方を説いており,レスターサローの言葉を借りるなら,
貿易とは国と国との間の「勝つか負けるか」の競争だとしている.第二に,貿易
について経済学者が語る理論には,ほとんどと言っていいほど触れていない(た
とえば,レスターサローの「大接戦」の索引を見ると,「比較優位」の項目がな
い).

言い換えれば経済学者が国際経済について,約200年にわたって懸命に考え,研
究してきたことは,デービッドヒュームの「貿易収支論」以来の経済学の伝統は,
公の議論の場ではまったく無視されているのである.そして,怪しげな論法が主
流の座を占め,むずかしい問題を真剣に考えようとはしないが,高度な理論を論
じているかのように思わせたい人達が,それに飛びついている.こうした論法が
貿易に関する議論を完全に支配しているため,貿易についてなにかを学ぼうと思
った人は,大学の教科書を読まないかぎり,もっとまともな理論があることには,
おそらく気付かないだろう.

このような論法は「俗流国際経済論」とでもいうべきものだと,私は考えるよう
になったが,貿易に関するまともな理論が駆逐されて,俗流国際経済論がはびこ
るようになった原因はどこにあるのか.(中略)マスコミや出版界の役割も無視
できない.国民経済計算の読み方を知っていたり,貿易収支が貯蓄と投資の差に
等しいことを理解している人達が書く難解な論評よりも,俗流国際経済論者の考
え方を好む傾向があるからだ.」

「たとえば,第三世界が巨額の外資を引きつける一方で,巨額の貿易黒字を出す
のは会計の単純な恒等式から不可能であることを,読者が当然理解しているもの
と想定している.だから,いかにも権威がありそうな論者からそれが可能だとい
う話を聞けば簡単に納得する読者とは,まともに対話が出来ない.」

「リトルロックから帰った時,貿易に関するもっとも単純で基礎的な事実ですら,
公の議論で無視されていることに気付くようになってきた.」

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#ところでクルーグマンって,経済学の分野ではどう考えられているの
#でしょうね?正当派?それともトンデモ経済学者?

#見た限りでは前者なんですが.

#少なくとも「国と国との競争は食うか食われるかのゼロサムゲームではない」
#というのは説得力がある.
##たとえるならトヨタ対日産のようなライバル関係ではない.
##むしろ日産/IBMとかの関係に近い.

この国際経済学とか貿易とかの部分を「オブジェクト指向(プログラミング)」等
に置き換えると,現在の日本の「オブジェクト指向」における現状と,おそらく
ほぼ同じです.

「なにかが,とてつもなくおかしくなっている.」オブジェクト指向の「もっと
も単純で基礎的な事実ですら,公の議論で無視されている」ということも少なく
ありません.

入門書では怪しげな理論(例えば「現実世界の関係を抽象化してソフトウェアで
表そうとする」)の方が支配的で,本気で「オブジェクト指向」を学ぼうとする
人は小難しい専門書を読むしかない.(それも何冊も.)しかし大半の初心者は
「直感的で分かりやすい入門書」に飛びついて,それ以上難しい本には触れよう
ともしない.ましてや名著と呼ばれる専門書などは論外.結果として自分が想像
もしないオブジェクト指向の本質が小難しい専門書の中にあることさえ知らない
ままに,怪しげな「俗流オブジェクト指向」だけを見て「これがオブジェクト指
向だ」「俺はオブジェクト指向を極めた」などと壮絶な誤解をしてしまう.

理解したつもりになっても,所詮は紛い物です.紛い物を使えば使うほど生産性
は低下します.そして最後には「オブジェクト指向を使っても生産性は上がらな
い」「オブジェクト指向は複雑すぎる.」「オブジェクト指向は間違っていた.」
「オブジェクト指向の次はXX指向だ/○○思考だ」などと短絡的な発想さえし
かねない.

そういうことが至る所で起こっているのではないかと危惧しています.誰が紛い
物を広めているか知りませんが,それがもたらす損失を考えると罪は重いと思い
ます.

すべてが単なる杞憂であれば良いのですが...

#残念ながら,こういうのに限って当たってることが多い.